コスト検討に時間を取られ完成品に支障が起きる

 コスト至上主義は避けられない。
積極的に取り組まなくてはならない、多くの技術者は納得している。しかし、それと引き換えに問題が発生しているのも事実。設計者の創造性が失われる、品質が維持できない、利幅が少なくなる。アンケート結果などから現在直面している問題が浮き彫りになった。
 Part1で述べたように、ユーザーの低価格化に対する要求は年々厳しくなっている。それに歩調を合わせて、メーカー側もコスト低減に対して努力をしなくてはならない。日経デジタル・エンジニアリングが2002年3月に実施した調査でも、多くの回答者が以前に比べてコスト低減を重視するようになったと感じている。ユーザーの要望を実感しているわけだ。
設計者には余裕がなくなっている
では、具体的にはどのコストを低減しようとしているのか。図2に示すように、「購入部品・素材の購買コスト」「部品の加工、成形コスト」「製品の開発コスト」が上位を占めた。実際、多くのメーカーがこれらのコストを低減するため、様々な取り組みを進めている。
 しかし、コスト低減を積極的に進めると引き換えに、様々な問題が起きているのも事実。アンケートでは、コストを低減するために起きている問題についても尋ねた。その結果、「コスト検討をするためのデータ作りに手間がかかる」「コスト検討に時間を取られ、細部に渡って製品の作り込みができない」といった項目が上位に来た。
 この結果から、まずコスト低減を重視するがために起こっている大きな問題の1つとして、設計者の業務が非常に忙しくなっていることが想定できる。購入部品・素材の購買コストや部品の加工、成形コストは、設計終了後に購買部門あるいは生産技術部門などが工夫することでも低減できる。しかし、後工程での改善になるほど、コスト低減幅も小さくなる。
 大幅にコストを低減させたければ、当然開発・設計段階からの検討が必要になる。例えば、部品の材質より安いものに変更しようとした場合、強度は足りるのか、耐久性は問題ないのかなどの検討が必要になる。これらは当然設計部門の仕事。設計者に掛かる負担は増えることになる。
 このことを裏付けるように、「コストを重視するあまり、斬新なアイデアが盛り込みにくく、創造性を失いがち」を問題として挙げた回答者の割合が約15%あった。通常設計者は、自分の担当する設計に対してコスト目標が与えられる。このコスト目標が厳しいと目標内に収めることに多くの時間が取られる。トータルで設計に割り当てられている期間は同じなので、品質を高める、新しい機構を考えるなどの作業に時間を割けない。コスト低減は前向きな作業とは言いがたく、その結果として創造性を失いがちになる。
新部品、新機構がクレームの基
 次に挙げられる大きな問題は、「低コストの部品を選ぶために品質が低下している」といった回答に代表されるように、製品の品質が維持できないことだ。コストを低減させるためには、新しい部品を採用する、または新しい機構を採用するなどの工夫が必要。どうしても、これまでに実績がない部品や機構を採用さぜるを得ない。
 当然、これまでの製品と同等の品質を維持するように、メーカーは十分に検証する。新たなサプライヤと取り引きをする場合は、そのサプライヤの実力を吟味するし、また新しい機構は解析や試作品による検討などで、問題をつぶしていく。
 しかし、ライフサイクルの短縮化により、近年は次々と新製品を投入していかなくてはならず、検証に満足に時間が取れないこともある。また前述したように、品質を作り込むための最大の責任者である設計者の業務が非常に忙しくなっている。あまりコスト低減にとらわれていると、思わぬところでクレームが付きかねない。
コスト削減が低価格化に追いつけない
 そして最後に挙げる大きな問題は、ユーザーの要望に応えて価格は抑えるが、その価格の下げ幅にコスト低減の度合いが追いつかずに、結局利幅を確保できないということ。Part1の図に示したように、この傾向は年々顕著になっている。
 従来は、それぞれの部門の努力の積み重ねが、価格の下げ幅に追いつくだけのコスト低減を実現してきた。現在は初めに設定したコスト目標が厳しいだけに、製品発売前にコスト低減の努力が追いつけずにいる。
 以上挙げた3つの問題、設計者の創造性が失われる、品質を維持できない、利幅を維持できない――は、放置しておけば企業存続の危機ともなる。以下Part3〜5では、これらの問題にどのように対処すべきかを探る。

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