いくら機能を高めても販売価格は上げられない

 「経済状況が明るい時は、ぜいたくな機能を評価してくれて、高い価格でも購入してくれるユーザーがいた。しかし現在は、価格に魅力がなければ、ユーザーは振り向いてくれない」(クボタ取締役機械事業本部機械研究本部長の四元俊之氏)。かと言って、機能が従来と同等で良いわけではない。ライバルメーカーがいる限り、機能、コストの両面で競わなければならない。
約10年で市場価格は30%低減
 メーカー間の競争は年々厳しくなっている。それを裏付けるデータとして、日本能率協会コンサルティング(JMAC、本社東京)が、3年に1度行っている「コストダウン実体調査」の結果を見てみよう。
 まず注目されるのが、1つだけ右肩上がりになっている機能性能のグラフ。90年時点を100とすると、99年時点は130の機能性能を持っていると、メーカーは考えている。
 一方で市場価格に関しては、まったく逆。90年時点を100とするならば、99年時点では70まで下がっている。
 もう1つこのグラフで注目すべきは、製品を開発・製造するために掛かったコスト。市場価格が下がっているのだから、コストも下げなければならない。しかし、市場価格の下がり幅に比べて、コストの下がり幅が少ない。これは、ユーザーに購入してもらうために市場価格は下げるものの、コストはその下げ幅に追いつけない。すなわち、製品を1つ売った時の利益が少なくなっていることを意味する。
低価格に多くのユーザーは反応する
 JMACの行った実態調査から、多くのメーカーが製品の高機能化、低価格化への対応にあえいでいる姿が見える。もちろん、他社に比べて圧倒的に機能に差をつけることができ、その結果高い価格で多くのユーザーが購入すれば、それに越したことはない。機能を実現するためにコスト削減をあまり考えなくても、開発投資が行える。
 市場が発展途上の製品であれば、この理論も成り立つ。多くのユーザーが購入する際に重視する「基本機能」の部分で差を付けられる可能性があるからだ。しかし、すでに市場が成熟している製品は、基本機能も成熟しているケースが多い。基本機能において他社と差をつけるのは難しい。他社に差をつけられるとしたら、人によって必要度が異なる、いわば「特殊機能」の部分になる。
 この特殊機能の部分に差をつけて、高い価格を設定しても、それを認めてくれるユーザーの数は多くを期待できない。企業規模が小さければ、このニッチなユーザー層を狙う戦略も考えられる。しかし、企業としてある程度の規模を持ち、さらに今後の発展を望むのであれば、この戦略は選択しにくい。厳しいというのは覚悟しながらも、高機能化、低価格化の競争に、踏み込むしかないのである。
情報技術の発展が低価格化に拍車
 近年、メーカーの状況を一層厳しくしているのは、ユーザーが求める低価格化の要因レベルが、高くなってきたこと。その原因として挙げられるのはインターネットの発達だ。
 今までもライバルメーカーがいる限りは、市場価格は自由に決められなかった。自分たちで適切と思って価格を設定しても、ライバルメーカーが同等な機能で安い価格にすれば、その価格に合わせざるを得ない。
 以前はユーザーが得られる情報には限界があったため、ある程度は価格をメーカー側でコントロールできた。セットメーカーはテレビコマーシャルや雑誌広告などで情報を流し、ブランド力を価格に上乗せできた。また、部品メーカーは営業力の強い会社が、購買部門の担当者には印象に残りがち。営業力の強さにより信頼を勝ち取り、価格に上乗せできた。
 しかし、インターネット技術の発達により、ユーザーは自由に情報を手に入れられる。検索サイトでキーワードを入力すれば、目的のWebサイトに簡単にたどり着ける。Webサイトからあふれるばかりの情報を手に入れることができ、コストパフォーマンスに優れた製品を選ぶことができる。
 また、企業間取り引きの場合においては、これまで取り引きのない企業同士を引き合わせるe-マーケットプレイスが各カテゴリごとに立ち上がっている。系列の崩壊の効果も重なって、なるべく安い製品を購入しよういう風潮が浸透している。
 市場のグローバル化も、低価格化を促進する要因の1つだ。自分たちの製品が知られていない国に売り込もうとすれば、信頼を獲得するまでは価格を下げざるを得ない。逆に他国の製品が同じような戦略で日本市場に進出すれば、それを迎え撃つべく、やはり価格を下げざるを得ない。
 このような要因により、しばらくは製品の低価格化は続くと予測できる。コスト至上主義は認めざるを得ない現実であり、メーカーとして積極的に対処しなければならなくなっている。
 しかし、コストを重視して製品を設計・製造しているがために、様々な問題が発生しているのも事実。機種重視に加えて新たにコスト重視も考慮して設計・開発を行わなければならないので、設計者を中心に業務は複雑化している。

次へ