東京都葛飾区で江戸、明治時代から続く二軒の老舗が手を組み、珍しいうなぎ煎餅を開発した。煎餅店の娘が、川魚を扱う料亭に嫁いだのが縁。「持ち歩けるうな重」をうたい文句にした一品には、高騰するうなぎを手軽に味わえるようにとの思いが込められている。 (加藤健太)
昔ながらの手作業で硬めに焼いた煎餅。バリッとかじると、うなぎの風味がふわっと広がった。煮汁を凝縮したうなぎエキスではなく、砕いた骨を練り込んでいるのが、はっきりとした味の秘訣(ひけつ)。表面は甘辛いタレが塗られ、お好みで付属のさんしょうをふりかけて食べる。
煎餅店は明治十七(一八八四)年創業の「神田淡平(あわへい)」(葛飾区青戸一)。唐辛子たっぷりの煎餅が名物で、「激辛」の言葉で流行語大賞に選ばれたことでも知られる。長女の天宮麻耶さん(26)が五年前、海外の人に受けそうな煎餅を考え、甘辛い味を好む外国人に「うなぎのタレはぴったりだ」とひらめいた。
昨年四月に結婚したのが純也さん(38)。江戸後期創業の料亭「川甚」(同区柴又七)の若旦那だ。映画「男はつらいよ」の舞台で知られる帝釈天近くにあり、夏目漱石や谷崎潤一郎ら文人たちにも愛された。うなぎ料理が専門で、淡平五代目の鈴木敬(けい)さん(58)とうなぎ煎餅の試作を始めた。
当初、うなぎの骨を砕いて生地に練り込んだが、「生臭くて食べられたものじゃなかった」と鈴木さんは振り返る。川甚に相談すると、うなぎを調理するベテラン職人は「下処理をしていないのでは」と一発で見抜いた。骨をゆでてあく抜きし、骨の芯から神経を引き抜くと、違いは歴然。えぐみや臭みが消え、うま味が残った。
鈴木さんは「日本料理は素人なので下処理は思い付かなかった」。両社の技を結集した新商品は今月十八日に発売された。
「もっと身近だったはずのうなぎを家族で楽しんでほしかった」と純也さん。うなぎは漁獲量の減少から値上がりが続き、川甚でも、十年前に二千円前後だったうな重を倍の価格にせざるを得なくなっている。川甚の若女将(おかみ)として奮闘する麻耶さんは「温めてきた思いがようやく実現した。日本古来の食文化に触れる機会を絶えずつくっていきたい」と意気込んでいる。
一枚百六十円。当面は川甚で販売する。水曜定休。問い合わせは川甚=電03(3657)5151=へ。