人間生活を取り巻くあらゆるものにコンピューターチップを埋め込み、それぞれが互いに通信し、情報をやり取りするコンピューター技術を「ユビキタス」と呼ぶ。かつては夢物語だったが、今や手の届くところにある。コンピューターや情報関連機器を除けば、個々の機器が内蔵したチップの情報処理能力は限定的なものかもしれない。しかし、それらが連携すれば膨大なパワーを生み、社会を変革する巨大なネットワークが出現する。
オフィスワークはもちろん家庭でも有線のブロードバンド(高速大容量)通信が一般化しつつある中で、無線を使ってどこででもネット利用を可能にする「ユビキタス」への取り組みが動き始めた。基盤となるのは無線LAN(構内情報通信網)や近距離無線通信のブルートゥースだが、応用範囲はパソコンにとどまらず、家電、映像音響製品、住宅機器など幅広い。ユビキタスは人の生活を一変させる可能性を秘めている。
サッカーのワールドカップ開幕に先駆ける5月27日、ユビキタス環境の実現に大きな一歩が踏み出された。成田空港と都心を結ぶ特急列車、成田エクスプレスの車上で、無線LANを用いた高速ネットの実証サービスが提供されたからだ。
NTTドコモの第三世代携帯「FOMA(フォーマ)」のネットワークを経由しての毎秒300キロビット程度の接続だったが、高速移動という特殊環境でもユビキタスが可能なことを証明した。
町中でのユビキタス環境は、NTT東日本が「Mフレッツ」と呼ぶ無線LANサービスの試験提供を開始。喫茶店やホテルなどでネット接続できる場所が広がり始めた。ただ、屋外や事務所内などでの低速のネット常時接続サービスはPHS事業者がすでに提供しており、人気を集めている。
無線LANサービスには有線のブロードバンド並みの高速ネット接続をどう実現するかという課題に直面している。またすでに社会に行き渡った携帯電話、PHSなどのインフラのうえにさらに別のネットワーク基盤を築き、商業性をもたせるにはユビキタスが実現するサービスやそれを通じて提供されるコンテンツの開発が一段と重要になってくる。
そこで注目されるのは、ネット家電だ。冷蔵庫や電子レンジ、エアコン、テレビなどにネット接続機能を持たせ、付加価値を高めるのがネット家電の構想。「IPv6」の導入で、家電製品などに1台ずつアドレスを割り当て、それを無線LANなどでネットに接続する形になる。
具体的な利用法として冷蔵庫の中の食品を組み合わせた料理のレシピ(調理法)の提供や電子レンジに適切な調理時間を指示するなどの使い方がある。
一歩進めれば、食料スーパーが常連顧客の冷蔵庫にある牛乳や卵、バター、冷凍食品など常用品の残量をネットを通じて把握、不足すれば配達し、ネット上で決済するといった電子商取引との融合も考えられる。
またエアコンが全地球測位システム(GPS)機能のある携帯電話を持った家人の場所を把握し、家に近づいたころを見計らって冷暖房を動かすといった使い方も現実的だ。ただ、現状ではユビキタス、ネット家電の可能性よりも利用法の発想の方がはるかに貧弱だ。
一方、ビジネス分野では、ユビキタスによってSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)が一段と進む可能性が高い。それは同時に、会社の構造を中央集権の階層型から分散型で、外部の人、組織をより広く取り込んだネットワーク型に変質させるきっかけになるかもしれない。どこでも誰でもより多くの情報に接することのできる環境は、大企業より中小企業、個人に有利に作用するとも考えられる。
ユビキタスが家庭やビジネスを今後、どう変え、自分はどう使おうとするのかと考えて、行動する人・企業にとってユビキタスは未来を開くカギとなる。
製造業システム武装
FA・センサー リアルタイムで現場把握
CAD 精度高めて無駄を省く
SCM きめ細かく計画修正
早く・安く・高品質に
1980年代に世界を制した日本の製造業は90年代に入り、勢を失った。日本の製造体系を徹底的に分析し、さらにコンピューターを駆使して情報技術(IT)武装を進めた米国と、安い人件費で安価な生産体系に特化したアジア勢の挟み撃ちにあったせいだ。過去の成功体験と決別し、いかに効率的な生産システムを構築するのか。日本が巻き返すカギとなるのもまたITである。
ロボット・製作機械 「知能」駆使し自動化
製鉄所 最適生産計画を策定
デスク・トップ・ファクトリー 超小型機械使い投資抑制
物流 さらに利便追求
石油業界 無線LANであふれ防ぐ
自動車 通信カーナビ快走
POS ネット接続 管理容易に
集客すいすい
運輸や旅行業界にとってIT(情報技術)はもはや不可欠の存在だ。ITを活用するか否かが宅配便業界の顧客獲得競争の死命を制する。ホテルの宿泊予約ではネット予約は旅行会社に並ぶ有力な集客ルートだ。鉄道分野では非接触型ICカードの普及が急ピッチで進んでいる。
宅配大手 決済代行、支払い多様に
スイカ 下がる費用 広がる機能
宿泊ネット予約 予約に応じ料金変更
デジタル医療浸透
医療の現場にIT(情報技術)の波が押し寄せている。電子カルテに代表される医療機関の情報化は着実に進んでいる。診断用の医療機器もデジタル化対応機器が次々に生まれている。遠隔診断市場も急成長している。大企業からベンチャー企業までIT関連企業の医療分野への参入の動きはやみそうにない。
電子カルテ 政府が支援策 商戦加熱
ME機器・診断装置 画像を診断、質も向上
金融 備え万全
金融界にとって電子商取引は大きなビジネスチャンス。だがインターネットに代表されるオープンな世界で顧客情報が不正流出しないよう徹底管理し、その一方で個人を正確に識別するには最先端の技術が必要になる。「暗号化」と「個人認証」は金融の情報技術(IT)武装を進める上で必須の要素だ。
暗号化 「純日本製」システムも
半導体チップ 紙幣に埋め込み検討
カード ICを導入、機能多様化
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