政府が支援策 商戦加熱 日経産業新聞 2002年7月18日

 2002年度から始まる医療制度改革の一環として、政府は医療機関の情報技術(IT)化政策を打ち出し、電子カルテについて普及目標を掲げるなど具体的な支援策が動き始めた。政府の方針を受けて、民間企業も製品を相次いで販売するなど商戦が過熱しつつある。日立製作所は病床数が200床以上の比較的大規模な病院向けの電子カルテを開発した。運用実績のある亀田医療情報研究所(東京・港)と慈風会津山中央病院(岡山県津山市)と技術提携して製品化した。単なる患者情報だけではなく他の医療機関からの紹介状など伝票類や帳票類を含めて電子化し管理できる。個々の患者への診療の予定と経過を治療計画に沿って時系列に見やすく表示するなどの独自の機能が特徴だ。日立は電子カルテシステムや医療事務システムなどを組み合わせた医療情報システムを提供していく方針だ。同様に東芝、富士通、NEC、三洋電機なども電子カルテなどを含めた医療機関の効率的な運営を総合的に支援する医療情報システム事業に力を入れている。情報関連以外の大企業やベンチャー企業の動きも活発だ。臨床捜査受託大手のビー・エム・エルは、電子カルテ事業を検査事業に次ぐ第2の事業の柱として育成を急いでいる。本業では検査実施料の引き下げが続き、今後市場の大きな伸びは見込みにくい。そこで医療関連で成長が予想される電子カルテに着目した。検査事業で取引のある医療機関の営業網を生かし、主に診療所など小規模な医療機関を対象とした電子カルテを手掛ける。自社販売する電子カルテ向けにデータの改ざんを防ぐ自動ロック機能や薬の誤投与を防止する機能を付加するソフトなども発売。医療品卸大手のクラヤ三星堂と提携し拡販体制も強化した。アピウス(東京・港)やイーホープ(東京・渋谷)などベンチャーも電子カルテ事業を強化している。大手が手掛けにくい中小規模の医療機関を主な対象に売り込む。ただ、現行の医療制度では医療機関が電子カルテを導入しても報酬上の利点はない。医療機関の運営が合理化でき、収入の増加につながるなどの成果が示されれば一気に普及が進みそうだ。腫瘍(しゅよう)の有無をはじめとして様々な疾患の診断に幅広く使う磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)。これらの画像を通信回線で送り、専門のセンターで分析する遠隔診断サービスが大きな市場になりつつある「わずか1年で契約件数が5倍以上に増えた」――。九電工は2000年6月に全額出資の子会社「ネット・メディカルセンター」を設立、遠隔画像診断事業に乗り出した。契約施設数は昨年4月の時点で7件だったが、現在では37件に急増した。「市場規模は九州だけで2億〜3億円、全国ではその10倍に達する」と推定している。先端的な医療機器であるMRIやCTを備える病院施設が増えたものの、撮影した画像をきちんと診断できる放射線科の専門医は不足している各企業はこうしたギャップにビジネスチャンスを見いだし始めている。「画像はデジタル化しやすく、もともと情報技術(IT)になじみやすい」(ネット・メディカルセンター)こともあり、遠隔診断は医療現場へのIT浸透の代表例となっている。市場で約7割のシェアを占めるトップ企業がセコムだ。1995年、他社に先駆けていちはやく事業を始めた同社は現在、東京都三鷹市と熊本市に画像診断のセンターを設置、90人近くの専門医が診断に当たる。北海道から九州まで全国266病院から総合デジタル通信網(ISDN)を通じて送られてくるMRIやCTなどの医療画像を読みとり、翌日には診断結果を送り返す。「契約件数は増加傾向にある。事業は黒字で順調」(セコム)という。新規の会社設立も増えている。北海道大学の教官らは4月、遠隔診断サービスと画像診断の高精度化に取り組むベンチャーを設立した。「土地が広い一方で専門医が少ない」(宮坂和男北大教授)という北海道特有の医療事情の改善を目指す。このほか、三菱電機も衛生回線を通じた遠隔診断技術を開発、中国で実証試験を進めている、遠隔診断ビジネスが今後さらに活発になるのは間違いない。