本土からの修理依頼
 光精堂主人 又吉氏によれば、仕事のかなりの部分が、本土からの郵送による修理依頼だと言う。主人の技術料は、本土に比べて極端に安く、送料を支払ってでもペイできるのだそうだ。
「宣伝しているのですか」と私は聞いた。
「いや、口コミで私の事を聞くみたいネ」と言う。
そう言えば、主人は長い間本土のカメラメーカーとの付き合いがあったし、時計メーカーの歴代の担当者との面識の数も多いのだろう。私は過去に、ヤシカJ3の修理をお願いしたが、たしか1万円そこそこの技術料であった。これが本土の業者なら5万円は取る。5分の1の料金である事をあらためて思い出した。物価の違いからくる独特の物流が、一部の本土の業者と又吉氏の間に出来上がっているのであった。沖縄は物価が安いと言う。しかし、よくよく沖縄で売られている商品を観察すると、復帰後は内地とそれほど変わりない。東京あたりでは、高価な一部の県産品(マンゴやパパイヤ)が現地価格である事と、アメリカ産牛肉及び加工食品が、かつての米軍施政の影響から安値安定である為に誤解されているのである。観光客はこれ位の事しか見えないのである。実際の物価は、それ程安くはないし、むしろ内地より高い物の方が目に付く。そしてもう一つ考察しておかなければならないのは、沖縄は地代家賃と人件費が伝統的に安いと言う事である。これが町の定食屋や、サービス産業の料金の安さにつながってくる。しかし、誤解のないように付け加えておけば、県民にとってはこれでも充分に高いと言う事は言っておかなければなるまい。こうした理由から、又吉氏は今後も安い料金で内地からの柱時計や機械カメラ、腕時計を直し続けるのである。
「仕事があるんだから、ぜいたくは言えないサー。昔の事考えたら・・・・」と言う。
「ダカラヨ」
私は又吉氏の目を見つめた。