ラドー
 沖縄のタクシードライバーの腕に光る70年代物のラドーは存在感がある。人と物とが時代を共有した事を感じさせる組み合わせは見ていて気持ちがよい。少しオーバーな例だが、チャーチルと葉巻であり、ロバートキャパとニコン、ルパン三世とワルサーP38みたいなものだ。70年代、初頭の沖縄、米軍施政のこの地に内地では流通しなかった型の腕時計は時代の生証人である。頑丈一点張り、武骨なこの時計は70年代の沖縄県民の腕に相応しい。昼は米軍基地の仕事に追われ、夜は反米デモの先頭に立つ。コザの町はこうした戦士であふれた時期がある。今は那覇近辺を流すタクシードライバーも。かつては、こうした人々の一員であった事を彼の腕に巻かれたキズだらけのラドーは、物語っているのである。