人 間 国 宝 
 人間国宝の陶芸家 金城次郎 をご存知だろうか。(沖縄県民である)
この人の作品はおすすめである。なぜおすすめなのか。ズバリ″安いからだ″。
重要無形文化財保持者の造った作品が、こんなに安くて良いのかと心配になる程安いのだ。
国際通りのおみやげ店の一角で見る事が出来るし、那覇国際空港内のおみやげ店にもある。
しかし、勘違いしないでもらいたい。その店の目玉として別格扱いであるとともに、大抵はカギの掛った頑丈なガラスケースの中に納まっている。
大皿は数百万円の値が付き、全盛期の(気力,体力、技量、共に最高の時期)壷には、非売品の札が付く事も多い。今回私がおすすめしたいのは、これら大作ではなく、直径4cmのグイ呑みか、高さ5cmほどのようじ立てである。これらは、運が良ければ5千円程度で発見出来るのである。天下の人間国宝作品が5千円ですぞ。おそらく金城さんは、日本一の安物を作っている人間国宝だ。高く売ろうとすれば売れる作家が、なぜこんな″沖縄みやげ価格″の作品を作るのか。私は妻が沖縄県民であるから、同じく沖縄県民である金城さんの気持ちが推察できる。
ズバリ″みんなが喜んでくれるから″造るのだ。もともと生活雑器、つまり日用品としての壷谷焼、みなさんが喜んで使ってくれてナンボノモンだ。金城さんは人間国宝になったからといって、一部の金持ちにだけ喜こばれる作品を作ることが、どうしても出来ないのである。壷谷焼は戦後のアメリカ統治時代、生活雑器(食器)の不足から、米軍援助のもといち早く再興した沖縄伝統の産業である。文字どうりすべてを失った沖縄で、最初に必要とされた物は食糧であり、それを煮炊きする道具だったのである。この時、壷谷の職人達は寝食を忘れて県に尽した。壷谷焼は、沖縄県民の命をつなぐ実用品としての陶器だったのである。
膨大な数の焼物が焼かれた。この時期に、金城さんは確かな腕を身に付けたのに違いない。
そしておそらく、現代陶芸作家の中で、最も多くの焼物を焼いた人物に違いない。
金城さんは、芸術家と言うよりは職人に近い。彼の作品は素朴ながら、確かな技術の裏付けがある。手を血に染めながら、祖国に尽したあの時代が、確かな技となって彼の作品に宿る。
奇をてらわない、時代に媚びない、はっきり言えばどこかあか抜けない。しかし、本物だけがもつ何かがある。沖縄に行く事があったら、ぜひ手に入れてみて下さい。