まちやぐわー
 沖縄の住宅地を歩いていると、ポツリポツリと雑貨店と八百屋をいっしょにしたような店に出くわす。どれも地元に密着したコンビニエンスストアーの様な店である。これらの店を沖縄では「まちやぐわー」と言って人々に親しまれている。
まちやぐわーで店番をしているのは、たいていおばー(おばあさん)である。戦後間もなく開店した店がほとんどで、商品の中には40年以上前のアメリカ統治時代の商品の売残りがあったりする。今風に言えばデットストックと言う事になるが、US物の爪切りであったり、バケツであったりと、たいした物ではない。沖縄はアメリカ統治時代の生活習慣が、あちらこちらに残っていて、これらの店で売っているハミガキ粉はコルゲートであったり、Tシャツはヘインズであったりとなかなか渋い一面もある。
トービラー(ゴキブリ)撃退用殺虫剤は、オリーブドラブペイントに黄色の横文字と軍用そのものである。軍の横流し品なのだろ。ウチナー(沖縄の人)は、この殺虫剤をアメリカーアースと呼んで、絶大な信頼をよせている。したがって、他の物は売れないそうである。(最近はキンチョールもよく見る様になった。)
亜熱帯に属する沖縄での、虫の被害は東京の比ではない。アリの大群が家の中を横断するなど日常茶飯である。東京では一匹のゴキブリにビビルが、沖縄では5,6匹の群にキモを冷やす。私はゴキブリなどそれほどこわくないのだが、家内は異常な位こわがる。少女時代にゴキブリの大群に襲われた(たぶんゴキブリも逃げたのだろうけれど、その方向が悪かった)体験が、今も尾を引いているのである。
 オバー達は、少しでも安く商品を仕入れようとする。そこに今日的なモラルは存在しない。米軍の横流品大歓迎、台湾からの密輸品大歓迎である。そう言えば、今年那覇国際空港で、あやしいダンボール箱数個をかつぎ出している、オバー達の娘(60歳位のオバー予備郡だ)を見てしまった。タクシーの行列の先頭に、堂々と割り込みどこ吹く風だ。先頭の青年はビビッて何も言えない。さすがの私も頭に来て、何か言ってやろうかと思ったが、来て早々万が一囲りのウチナーを敵にまわしては、今後が思いやられると、グッとこらえたものである。
 そんな訳で、日本では許可されていない化粧品や薬、健康食品のたぐいがまちやぐわーにはあったりする。オバー達にそんな事は関係ないんだろうな。このまちやぐわーが今、郊外型大型店やコンビニエンスストアーの台頭で、お先真っ暗だそうである。今後はオバーの娘たちの力にかかっているが、この娘達がなかなか強者なのは空港で証明されている。頑張ってもらいたいものだ。それでもやはり、今より数が少なくなるだろう。
古き良き沖縄、今のうちですよ。