光精堂 6 |
前回弟と光精堂におじゃました際、店内にあった米軍用掛時計のジャンク品を見つけた。 弟は純正の部品で修理できるなら、3万円で買い取ると言っている。店主は可能であると自身ありげであった。一部代替品を使うことになるが、オリジナルな状態は保障すると言う。その時計を引取るのも、今回の目的の一つである。 正直3万円はいかがなものかと不安であったが、一目見るなりそれが杞憂であったと思った。見た目はくたびれた物だが、その内部から聞こえる機械の鼓動は確かな物であった。 「中の機械を直すのは手慣れた事だが、ネジを巻くカギが無いのは困ってしまった。仕方ないから手作りしておいたよ」と言う。 そのネジ巻きは、ありあわせの材料で手作りされた物だが、世界に2つとない珠玉の一品に仕上がっている。私はこの時計を弟に引渡すのがおしくなってしまった。 「那覇国際空港で、イラン人の盗難にあってしまった」 「首里城正殿前の石段に置き忘れてしまった」 「日米友交の証として、カデナの軍人にあげてしまった」 などと気のきいたうそを考えてみたが、弟とて私と36年の付き合いである。見え透いたうそなど簡単に見抜くであろう。 今回は、兄の威厳を保つためにもあきらめる事にした。 |