星 時 計 店
 沖縄ホテル入口右角に有る星時計店は不思議な時計店である。
シャッターは開き、店内には電気がついている。ショーケースの上には最近置いたのであろう紙のオブジェが美しい。琉球伝統の飾り物らしく、一種の商習慣のようだ。真紅の折紙でみごとに仕上げた一種の紙細工である。商売繁盛千客万来の祈りを具体化した古来からの風習であろう。
 ところがである、店に入っても誰もいない、大きな声で呼んでみるが反応がない。ここまでは東京下町のさびれた商店街でもよくあることだ。誰も居ないのを良いことにじっくりとショーケースの中身を観察した。どうもこの10年来開けた様子が無い。ショーケースのせまい空間の中でも、なおホコリが積もっているのである。商品も当然全て10年から20年前のデットストックである。時計の風防にはうっすらとカビが生えている。カメラレンズの内部のカビは外気との接触が無い為高温多湿に長時間放置すれば、簡単にカビが生えてしまうのはよく知られている。しかし、時計の風防がガラスのしかも外側にカビが生えるとなると尋常ではない。これは手強いぞと思わせる一瞬であった。
 ようやく女性が姿を現す。主人の奥様であろうか。どうやら奥の部屋で寝ていた様である。商品をみせてくれるように頼むと、主人がいないからだめだと言う。値段の事は後日主人と交渉するから、商品だけでも手に取らせてほしいとお願いする。それもだめだと言う。売る気が無いのである。2ヶ月前に訪れた時は主人がいたのだが、閉店の時間だから帰ってくれと言う。午後3時にである。これは完全に売る気が無い。ではなぜ店を開いているのであろうか。様々な憶測が可能だが、どうも世間体のようである。今は別の収入があり悠悠自適である。しかし、商人としての意地あるいは創業時の思いからか店は閉められないでいる。たまに客は来るのだが、売ってしまえば商品を仕入れなければならない。したがって売るに売れないのである。まずはそんな所であろう。
さてここに沖縄固有の県民性を見出すことは可能であろうか。