TV録画用「HDレコーダー」 日経産業新聞 2002年6月19日
 ハードディスクを記録媒体に使う録画再生機、HDレコーダーが、米国の家電市場で台風の目に浮上しつつある、テレビ番組を広告だけ抜かして再生する機能などが売り物だ。著作権侵害を理由に放送局などが出荷停止を求めて提訴したところ、かえって関心が高まり、VTRに置き換わるとの見方も出てきた。
 米国で普及しつつあるHDレコーダーは、パーソナル・ビデオ・レコーダー(PVR)と呼ばれる。日本でHDレコーダー単体で浸透しつつあるのとは異なり、PVRはネットワークを利用した利便性が特長だ。
 番組タイトルやタレント名などをユーザーが入力すると、PVRはそれを製造元のサーバーに電話回線を通じて伝える。受信したキーワードをもとにサーバーは対象となる番組を選び出し、再び電話回線でPVRに伝える。それを受けPVRは自動的に録画するーという仕組みだ。
 ユーザーは時間を指定する必要がなく「VTRより簡単」との評価もある。新興企業ソニックブルーが昨年9月に販売開始を表明した「リプレイTV4000」は、CM部分だけを抜かして再生できるうえ、ブロードバンド(大容量)回線でユーザー同士が録画した番組をやり取りできる。
 PVRの1999年の登場以来、放送局は高速再生機能などに警戒感を示してきた。「リプレイTV4000」の発表で懸念は頂点に達し、昨年10月、放送局や映画会社など29社が出荷差し止めを求め提訴した。これに対し同社は同年末、予定通り出荷を開始した。本格的な審理は来年になる見込みで裁判の展望は不透明だが、ソニックブルーのケン・ポタシュナー社長兼最高経営責任者(CEO)は「提訴を機にPVRへの関心が高まった」という。
 PVRは当初「家電界の大型新人」として注目されたが、500ドル(約62000円)台の価格が敬遠され浸透は進まなかった。だが昨年から使い勝手の向上や価格低下で「利用者は大幅に増えてきた」(ポタシュナー社長)。現在最も安い製品は400ドル弱。裁判で勢いは加速しつつある。
 PVRの主要メーカーは、ともにカリフォルニア州に本社を構えるソニックブルーとティーボの2社。ティーボ」の4月末時点での利用者は422,000人で、一年前の倍以上に増えた。ティーボからソニー、ソニックブルーから松下寿電子工業などが技術供与を受けて独自製品を開発しており、有力家電メーカーの参入がすすむ見通し。
 ソニックブルー自身は今年中に、低価格PVRを売り出す。来年には、DVD(デジタル多用途ディスク)と融合させた機種や、ネットからダウンロードした音楽を保存できる機種なども発売し、品ぞろえを広げる。
 業界では「今年のクリスマス商戦あたりが普及への分岐点」(ティーボのジム・バートン共同創業者兼最高技術責任者)との見方が強まっている。調査会社のトレースストラジーズによると、今年のPVRの利用者数は前年比3倍増の2850,000人に達する。

ソニックブルー社長に聞く

 ソニックブルーのポタシュナー社長に、裁判を含め展望を聞いた。
−開発時に提訴の可能性は考慮したか。
「製品開発にあたっては、エンジニアとほぼ同数の弁護士を雇って著作権侵害にならない機能を選んだ。大手メディアが29社も集まって提訴してくるとは思わなかった。もちろん、今日でも合法だと信じている」
「提訴によって私たちへの認知度は向上した。『放送局が嫌がるとは良い製品に違いない』と、消費者が興味を示してくれている」
−CMを抜かす機能を広告会社が懸念しているが。
「リプレイTVは、ユーザーがどんな番組をみてどんなCMを抜かすのかを記録して、ユーザーの好みの傾向を割り出す事が出来る。この機能を活用すれば、広告主がユーザーの傾向に応じたCMを送ることが可能になる」
−今後、放送局と関係はどうなるのか。
「放送局はそのうち私たちと提携し、新しいビジネスモデルを作り出すだろう。たとえば、私たちが放送局のすべての番組をサーバーに録画し、ユーザーが見逃した番組があればそれを2ドルで売って、その半分を放送局が取得できるようにする(といった仕組みが考えられる)」
−本格的な普及はいつごろとみるか。
「今年のクリスマス商戦がPVRの発火点となり、来年から本格的に普及するだろう。今後5〜7年間で、米国の世帯の半数がPVRを所有するとの予測もある」