友人に宛てた手紙
この度は弊社の製品をお買い上げ頂たいへん有り難うございます。
厚く御礼申し上げます。

また、ご子息の大学御入学おめでとうございます。
心ばかりの品ですが入学お祝いです。
御笑納下さい。
今回差し上げたカメラは、ロシア製の物です。
ここで少しロシアカメラについて説明しましょう。
すでにご存知のように、今日のロシアは1991年末エリチンによって建国された、比較的新しい国家です。これをさかのぼる事6ヶ月。
ミハエル ゴルバチョフによって、ソ連と東欧諸国で構成する、経済相互援助会議コメコンが解散します。ここにいわゆる、東側諸国 経済圏と言われるものが消滅しました。
それまで東西を仕切る鉄のカーテンによって、秘密のベールに隠されていた数々の東側製品、技術、文化などが一挙に西側にもたらされたのです。
今回差し上げるこのカメラは、これらの内の一例と考える事が出来ます。
私は、20年来カメラコレクターとして、唯一仕事以外の事に心を砕いてきました。
ほんの数年前までは、東側諸国の製品など見る事も、触る事もかなわなかったものです。
計画経済から自由経済に移行した以上、売れるものは何でも売ろう、少しでも多くの外貨を獲得しようと言う、ロシアなりの努力が少しづつ実を結びはじめていると言えるでしょう。
お金さえ出せば戦闘機でさえ買う事が出来るのです。冷戦下では考えられない事でしたよね。
さて、ロシアカメラの歴史を簡単に説明いたします。
第2次世界大戦終結と同時に、ドイツは東西に分断されました。当時、世界最高レベルの光学技術を保有していたカールツアイス社は、東西両陣営の最も欲しい戦利品でした。ドイツのUポートが世界最強だったのも、戦車砲の命中率が抜きんでていたもの、カールツアイス製距離計が有ったためだと言われています。
そのカールツアイスが、不幸にも東ドイツ領内に有ったのです。
これにはアメリカも慌てたようです。カールツアイスの技術が、そっくりそのままソ連に渡る事になれば、戦後の安全保障に暗い影を落します。
ソ連軍進駐の僅か3日前に、上級経営者と指導的な科学者、技術者を西ドイツに疎開させたことは、あまりにも有名です。
そして3日後、ソ連軍の手によって、残されたほとんどすべての技術者と設備が、ソ連領内に持ち去られたのです。
このカメラは、この人たちによってつくられたものなのです。
見ての通り、共産国であった国の製品らしく、デザインは垢抜けませんが、基本的な光学性能は我が国の物に決してひけをとらない物です。
今日の日本製オートカメラと違い、若干の技術を要しますが、手馴れれば素晴らしい写真が撮れる事を保証します。
何もかもがプラスチック製の昨今、金属の質感もまた格別かと思います。
もし使わなくても、お部屋のインテリアに最適です。  ???
                                     鈴木 敬