タカノの腕時計
 息子の中学受験が終わり、なんとか進学校も決定した。なにはともあれ、よく努力したしがんばった。遊びたい盛りだったろうに、よく我慢もした。これがのちのち、本人の為になるのだと思う。信念がなければ、親だって泣けて来る。だから、この春休みは思う存分羽をのばせばよい。6年後には、また受験が待っているのだから。
 そんな訳で、一家総出の沖縄旅行である。旅行と言っても、女房の実家なのだから2年半ぶりの里帰りだ。実の所、私自身はこの2年間に数度沖縄を訪れている。友人に沖縄を案内するのが楽しくて仕方が無いのである。何度行っても新しい発見があり、日本の中の異国として、私にとっては最も愛する土地となった。
 沖縄の魅力は、なかなか一言で言い現せないが、らんぼうに言ってしまえば、他の地域との”時間軸の差”と言える。これは、内地との「歴史的背景の差異と、現在時間の内地との時間認識の基準の相違」と言う2つの意味で使っている。歴史的背景は、古くは中国、ベトナム。タイ、インド、その他ほとんどのアジア諸国との国家レベルでの文化交流、交易などを言っている。近代の日本との関係、そして、戦後のアメリカ支配、これらすべての琉球の履歴が今の沖縄の根っこなのである。こんな簡単な歴史を少し踏まえただけでも、内地はむろん、他のどんな国よりも多様である事はあきらかである。もう1つ、時間認識の基準の相違と言うのは、南国固有の気象条件から来る、行動様式の違いである。午前10時位から午後5時位の間は、古典的な経済活動が停止し、夕方から翌朝方まで活発な物流が起こる。(24時間喫茶店のなんと多いことか)つまり、まったく内地と逆になっているのである。戦後創立された企業は、もちろん例外ですよ。
 ではなぜ日中は皆さん動かないのでしょうか。答えは簡単。暑いからなのです。こんな暑い中目を血走らせて、町を闊歩しているなんざ、人生を楽しむ事を知らないナイチャー(内地の人)位なものでしょう。米兵だって、こんなことしませんよ。
 さて、今回の旅行でも、光精堂にはちゃんと顔を出す。最近は店主も、私が来るのが楽しみらしく、満面の笑顔で迎えてくれる。そりゃそうだろう。行くたびに、数万円落とすのだから上客だ。しかし、どうもそれだけではない。店主にしても、異国の人に会うのは刺激だろうし、楽しいのに違いない。今回は女房が、タカノの婦人用腕時計を仕入れる。少し調子が悪かったので、オーバーホールの後東京へ郵送してくれる事になった。それから1ヶ月、待てど暮らせど時計が来ない。本日たまりかねて沖縄へ電話をした。
「もしもし、光精堂さんですか?」
「ハイハイ」
「東京の鈴木ですけど、お久しぶり。」
「鈴木さん・・・・?アーアー いつもどうも。・・・・・・・・例の件ね・・・・・ん〜時間かかってるさねー。」
「いや、ま 急ぐ訳じゃないんだけれど、まぁ・・どうしたかと思って。」
「いや、まぁ・・ん・・うかっりしてたサー」
「・・・・・・・・・・・」
「急いでやりましょうネー。3日したら送りますよ。」
「いやまぁ、急いじゃいませんからね。そんな急がなくていいですよ。アハハハ・・・」
「そうですか・・・・」
「んー大丈夫、大丈夫」
「それじゃぁー出来たら送りますから、どうもありがとうございました。」
「よろしくお願いしますね」
               ガッチャン