新東京時計
田中時計店で譲ってもらった、東京時計製目ザマシ時計の箱が見つかったから取りに来ないかと電話があった。
梅雨の合間の夏日、外は38度である。日曜日の健康散歩、サウナ気分で出掛けてみるか。この時期の気温38度には、身も心も準備が無い。真夏の38度と違っておそろしい程暑く感じる。
街中の人出も無い様で 田中時計店までの5分だれともすれ違わなかった。下町青戸でもこれは異常事態である。
店に入ると店主がうれしそうに待っていた。
差し出す箱は40年程前の物、おそろしくムードがある。中に時計がはいっていた、と言うよりもカルピスかアメ玉の入っていそうなかわいい箱である。時代の違う感性が楽しい。中にしおりが入っていた、赤いひもの付いたかわいらしい物で本当にしおりとして使用可能になっている。
しおりには、
“暑くても,寒くても狂いません”
キャッチコピーが踊る。
“暑くても”の部分にはココナッツの繁る南の独島で真っ黒に日焼けした少年が時計片手にサンバのリズムだ。(?)
“寒くても”の方は白クマ君とオットセイがデザインされている。(実に解りやすいデザインではないか)裏に目を移すと 誇らしげな新東京時計(株)のロゴマーク。
“このマークは40年前の創業から今まで使われ続けています”注釈が付く。
40年前プラス40年前で80年前のロゴマークと言う訳である。
更に技術的な解説におよぶ。
「コリンバーと言う特殊合成金属のひげぜんまいですから寒暖の時差がほとんどありません」
なるほど それで南国の少年も白クマ君も快適な朝をむかえる事が出来るのである。
それにしても“コリンバーと言う特殊合成金属”なかなかすごそうではないか。
熱膨張の少ない合金と言う事だろうが、こう書くとなんだか、カッコウがよろしい。更に「あらゆる處がネジ一本に至るまで実に親切に作ってあります。」と続く。
親切と言う単語の使い方が面白い。
でも考えてみれば物を丁寧に、一生懸命造ると言う事は、まぎれもなくそれを購入して下さるお客様に親切である事に間違いない。
使い捨て商品が大半の今日、少しセンチメンタルな気分になってしまった。