リコー フレックス T


 私のコラムで取り上げられる事の多いリコーフレックス。T型はそのシリーズ最後を飾る製品である。
台湾リコーで作られ、台湾で売られた為。このカメラの事を知らない日本人が多い。
日本製でない為 日本カメラ年鑑にも載らない。私はこのカメラを沖縄、光精堂で入手した。
沖縄の遊びに来た台湾人が置いて行ったと言う。沖縄が日本に復帰する以前の話だろう。
沖縄と台湾の関係は我々が思う以上に長く深い。
遠く琉球王朝の頃は南方貿易で関係が深く清国は沖縄を大琉球、台湾を小琉球と称していた。
国土の狭い沖縄を大琉球と呼んだのは文化的な優位性を清国が認めていた証と言える。
復帰前アメリカ世では、台湾との正式な航路が確立する以前から、密貿易がさかんであった。
今なお、沖縄、台湾航路は盛大で、多くの商人が made in japan を求めて沖縄に来る。
かつぎ屋と呼ばれるおばさん達の商魂は実にたくましく、
体重の何倍もの荷物を持ち帰るのだそうだ。
一番の売れ筋は日本製の薬だそうである。
日本の旅行者は台湾で漢方薬を買い、万病の薬のごとく珍重する。
一方、台湾人は日本製の薬は最高だと言う。人は元来 ない物ねだりなのだ。

光精堂にリコーフレックスT型を持ち込んだ台湾人も、おそらく航路で来たのだろう。
泊湾のすぐ裏手に光精堂はある。
私はクラシックカメラコレクターを始めて30年以上になる。
銀座でこの リコーフレックスT型を目にした事は一度もない。にもかかわらず沖縄では2度目にした。
一度はカメラのタカチヨで、もう一度は光精堂である。
年中いる訳ではない沖縄で2度までも目にする事は、
このリコーフレックスT型は沖縄にはたくさん在ると言う事である。
グローバル経済のはるか以前、物流は地域性、民族主義、国家体制に大きく依存していた。
この事を沖縄のリコーフレックスT型は教えてくれている。
今はと言えば銀座のカフェで青島ビールが飲める時代である