オリエント時計
 1997年は、映画タイタニックの当たり年となった。
私は、息子に誘われて10年ぶりに映画館へ出かけていった。上野東宝である。久しぶりの銀幕に圧倒されながらも、映像の美しさには感服した。今日でも、大型スクリーンで見る、価値のある映像が存在すると再確認する。但し、この映画に関しては、見る価値のあるストーリーと言わない所がミソなのだが。終演の後、上野西郷さん下にある、時計店が目に止まる。
 この店は、国産腕時計の逆輸入品が豊富で面白い。20年位前に流行したデザインで、この手の時計が発展途上国では、まだ商品価値があるらしい。これらの機械式腕時計を、今私たちが見ると、別の意味で新鮮である。記憶をえぐる輝きが、私を釘づけにする。数分後、2本のオリエント自動巻を握りしめていた。息子とおそろいの5,800円のその時計は、「タイタニック記念モデル」と命名され、以後私の愛用品となった。
 オリエントを選んだ理由は、国産品であったためである。セイコー、シチズンは、東南アジアで製造されているらしく、made in Japanの文字が無い。これは寂しい事で、オリエント以外は考えられなかった。おそろしく正確なその時計は、「かってにクロノメーター」と、ペットネームもあたえた。隠れた名品と報告しておく。名品と言うからには、私のような素人の思い込み以外にも、御墨付きが有る。
 今年、沖縄光精堂に遊びに行った折、店主がその時計の機械を見せろとうるさい。手渡すと、裏ブタを開け、何やらしきりに感心している。開くと、この機械はセイコーだと言う。
「チョット待って、オリエントと書いてあるじゃないか」と言う。
「これはセイコーの機械そのもので、セイコーが、機械時計の製造をやめた時、マザーマシーンごとオリエントが引き継いだ物だ」と言う。
 あの名品、セイコー5系の末裔が、今日この様な形で生き長らえていたのである。「こうして長い間作り続けられている機械は、本当に良い物が多い。」と付け加えた。セイコー5系は、今でも台湾で作られている。しかし、この時計は日本人が日本で作っている。こっちの方がはるかに良い。シンガポール製のオメガなんか欲しいと思う?