マスミフレックス
青戸公団は、桜の名所として区民の間で人気がある。5年位前に建替られた真新しい棟と、きれいに舗装された並木道が下町の中にあって、特異な空間を出現させた。この公団を目当てに、周辺には商店が軒をつらねる。公団が新しくなったのと対象的に、昔ながらの商店街はその風情が強調されて目に映る。かざらない代々の店は、食品関係が多く、どこの店の品もみな旨そうである。夕刻はそこそこ賑う様で、なじみの客も多いのであろう。
そんな商店の一つにリサイクリショップが有る。質屋が母体のその店は、かなり前から有る様に記憶する。最近数年ぶりにおとずれた。薄暗い店内には、中古の時計、家電、カメラ、バッグなど、うず高くならべられている。大半の消費材が激安の今日、この手の商売もなかなか大変そうだが、私のおとずれたその日は二名の先客が有った。これほど雑多で、かざらぬ店がまえは、逆に新鮮に映るらしく、良い物を安く買えるのではないかと、客を錯覚させるらしい。冷静に見れば、価値の無い物も多い様である。店の奥に、一台の二眼レフが有った。一見して時代を感じさせる。今まで見た事の無い物だったので、なにはともあれ購入する事にした。定価6,500円の所、5,000円にまけると言う。ありがたい事だが、妥当な値とも言える。
名をマスミフレックスと言う。マスミフレックスは、戦後の二眼レフブームの折に出現した低級機である。T型、U型、V型は、よく知られていて、たまに中古市場で見かける物である。例によって、この時期の弱小メーカーによくあるコピー商品で、戦後の傑作リコーフレックスV型のコピーである。しかし、今回のマスミフレックッスは、このいずれでもない。むしろ戦前のリコーフレックスB型のデットコピーなのである。しかしリコーB型のコピー機は世に知られておらず、日本カメラ名鑑にも、その他の資料にも、一切記述が無い。リコーB型とスペックを比較してみると、コピー機であるにもかかわらず、マスミフレックスの方が高性能である。低速1秒から1/200秒までのシャッタースピードは、戦前のリコーでは実現していないのである。シャッター名をNKKと言う。戦後中級機によく使われている物なので、戦後の物である事は、まず間違いないだろう。それにしては、戦後一般的になった、レンズコーティングがされていない。
今はこれ以上書きようがない。今後の研究課題とするものだが、なにか判明ししだい報告する。