ロード・ソフナー

 何度かお話しした様にカメラ・コレクション(骨董趣味)の醍醐味は、その物が造られた時代に直に触る事が出来る、生きた歴史を学べる事にある。良い例を一つ。最近入手した(¥300.)ソフト・フィルターがある。ロード・ソフナーと言うブランド名で岡谷光学製である。ソフト・フィルターとは、薄い光学ガラス板でレンズの直前に取り付ける事で軟調な映像効果をえるカメラ・アクセサリーである。主に女性写真に利用され全体に柔らかくボカしたり、光を星型に輝かせたりする。最近の物は、高度な技術で製造される光学ガラスで高性能である。今回入手した物はガラスのかわりにフランス紗を利用する物で、技法としては古くからある。今回の物はおそらく1953年〜1955年頃に製造された。日本が敗戦の傷跡からまだ完全に立直っていない頃の物である。この事が付属の使用説明書から強烈に伝わって面白い。以下に説明書をそのまま引用する。

軟調描写用ロードソフナー Lord SOFTENER フランス紗をレンズの前に取り付けて撮影する軟

調描写の方法は一般撮影の外、映画撮影等にもかつてはさかんに用いられたものです。戦後は優

良なフランス紗が入手出来ないためこれを使用出来ませんでしたが、最近鮮鋭描写のみでは満足出

来ない写真家の要望もあり、紗による特異な軟調描写には捨て難い味がありますので、現在入手出

来るフランス紗の中から適当なものを3種類選定し、これをロードソフナーとして透明ケース入りの

セットとしました。

 ソフナーの使用効果 亂れ型 紗の糸が不規則に乱れており最も一般的に使用されているもので

す。ボケ方は四方に平均ゆるやかなボケを與えます。人物、風景靜物等いづれの被写体にも有効で

す。映画のプロマイドに見られる軟かな感じの写眞は皆この紗を使用して撮影したものです。又ボケ

方の程度を加減するために、線香火で紗の中央部に直径3ミリ位の穴をあければ変つた描写が得ら

れます。

濃十字型 紗の糸が十字型に細く整然としているもので、

乱れ型と同じ程度の快いボケ味を與えますが、被写体の点状に光つている部分が十字型に描写さ

れる特色をもっています。キラキラ輝く逆光の水面や人物の眼光等が十字型に光つて写るのは皆こ

の十字型紗を利用した効果です。

淡十字型 濃十字型紗ではボケが強過ぎる様な場合には、割合ボケ方の少ないこの淡十字方紗を

使えばよいわけです。点状の光が十字型にボケる程度もずつと弱いもので全体的にも僅かに軟らか

な描写をします。

以上の3種類の紗は引伸の際にもレンズの前に取付けて使用すれば又面白い効果が得られます。

尚このロードソフナーを使用して撮影する場合は上記の通り夫々に應じて露出を増加しなければなり

ません。

ソフナーの取付け方 このソフナーを用いる場合はロード専用フードにフィルターを使用する時と同様

にしてフードの押え環を外してはめ込みます。又フィルターと併用する場合はソフナーをレンズとフィル

ターの間に入れて下さい。 OKAYA OPTICAL CO.,LTD.





  岡谷光学について少し説明します。岡谷光学はLordと言うブランドで1953年35mmフィルム レンズ シャッター レンジファインダー機を発売する。 I型は40mmレンズF3.5であった。
以降、毎年新型を投入している。UA型1954年 WB型1955年 WA型1956年 5D型1957年 SE型1958年 SL型1959年 Martion型1959年 1958年のSE型から近代デザインで頑張ったが、翌1959年のMartionを最後にカメラ事業から撤退する。1959年はあの世界的名品ニコンFが発売された年である。いつの時代も勝組の陰に負組の存在がある。これは今に始まった事ではない。