空洞化
安価に大量に物を生産する力を急速につけてきた中国企業、一方で日本の製造業は、国内でのコスト高に見切りをつけ、海外へ製造拠点を移している。合併であったり、OEMであったり、海外小会社であったりと様々だが、いずれにせよこれまで見られなかった、ダイナミックな製造業の移動、提携が加速している。こうした事が今最も盛んに行われているのが中国である。
中国は安く大量に物を造る力を生かし、販売量や生産品目の拡大を狙う。世界一の生産技術を誇る日本企業は、物作りにおいて、一番大切な事は高品質であると考えていた。実際品質管理が生産現場で最優先されている事が多い。一方で、昨今の家電製品における安売り競争の激化の中で、自らの過剰品質体質に気が付きはじめている。そこそこの品質の物を、安く大量に造る能力においては、中国や台湾などの企業の方が一日の長があるのである。そしてこうした安い物の方が良く売れる時代になって来ている。
 物造りよりも知的価値が優先される、知識社会に移行したと言われる。日本の高賃金と共に、日本の製造業が空洞化する最大の要因の様に思われている。しかし、それとともに考察しなければならないのは、製造業の技術的な変革期にあると言う事である。
デジタル家電の名称で知られる様に、今あらゆる電気製品がデジタル化し、部品の共通化が進んでいる。この共通部品の組合せによって、小さな会社でも最終製品メーカーと対等に戦える時代が来た。デジタル家電では、業界標準の半導体チップと基本ソフトによって動く、パソコン的な製品に変貌していくと言われる。アナログ技術を詰め込んだ、これまでの家電製品は、メーカーの独自規格に固められ、新規参入は極めて困難であった。つまり、機能を創出するカラクリが、専用のメカニズムであったり、専用の電子回路であった為に、事実上大企業や、長年のノウハウを持つ専業企業の独占であったのである。この技術的独占が崩壊した点に、中国や他の発展途上国の台頭があり、同時に日本の製造業の空洞化の要因があるのである。
日本ビクター常務、高嶋 肇氏は2000年12月、日経産業新聞に次の様なコメントを載せている。
「デジタル時代を迎えて、設計者と技能職が一体となった物造りは徐々に出来なくなっているのは確かだ。ハード技術の集積による作り方ではなく、標準となった技術や部品を組み合わせる作り方になっているからだ。EMS(受託製造サービス)が、今後広がるのも確実だろう。しかし、ドラムに代表される機械系部品も、電子部品も、部品には一定以上の経験や技術の蓄種が必要とされ、精密加工技術の重要性が薄れることはないだろう。」
氏は1976年、世に送り出したVHSビデオデッキの量産技術確立の立役者として有名である。精密加工技術の結晶であったVTR、特に映像情報を記録する機能とドラムの量産技術の確立は、日本をAV(音響映像)機器生産大国に押し上げた一因とされる。このAV機器の圧倒的な競争力が、今日のフロッピーディスク、CD、CD-ROM、DVDなどのハードディスク駆動装置で日本企業が強みを維持している一因なのである。
氏は、「人工衛星のジャイロ並の加工精度を家庭用AV機器に持ち込んだ。」
と言われているのである。
昨今の日本の製造業が、アッッセンブリーメーカーとしての機能を次第に海外に移し、デバイスメーカーに変貌している事も、これらの実事の裏付けと考える事が出来る。