なにげないカメラ店
「機械と言う物は、なまじ修理に出さないほうがいいね。いじっていればそのうち動くようになることが多いよ。夏になれば、なおさらいいね。」
東池袋秀映社の店主の言葉である。店主は40年位前から、この地でカメラ屋を始めている。その前は、サラリーマンをしていたと言う。50年代から60年代にかけての二眼レフブームの時は、商品仕入れに苦労したようだ。コスモフレックスと言う、比較的名の知れた二眼レフがあるが、これを三ノ輪まで引取りに行ったと言う。工場が見つからずに苦労したらしい。結局見つけたのは普通の民家で、ここがカメラ工場かと驚いたそうだ。
先にも書いた通り、コスモフレックスは比較的名の知れたカメラなので、コスモフレックスあたりでも、そんな小さな会社で作っていたのかと、私も驚いた。
小柄でひょうひょうとした店主は、カメラに対する姿勢が自然体であることがおもしろい。自分達がかつて扱ったカメラ達が、今日再び高い評価を得ている事が、ゆかいでたまらない様子である。中古品として、どうしようもない時期があった事を知っているだけに、なおさらなのであろう。
レジスターの横に、ドライヤーが1台ころがっている。これでカメラを温めると、調子が良くなると言う。店主は得意げにカメラのボディーキャップを外すと、カメラの内外を温めだした。
「どお。感じ良くなったでしょう。」
私に手わたす。
「普通のお客には、こんな所見せられないんだけどねえ。訳知りのお客はかまわないよねぇ。」
「まあ、カメラなんて物はこんな所だねぇ。」
私も同感である。昔のカメラはこんな所が良いのである。にわかクラシックカメラファンは、昔のカメラは良いカメラみたいに思っているようだが、やはり今のカメラの方が良いにきまっている。昔のカメラは楽しいカメラと言った方が正解ではなかろうか。
店主の所で扱うカメラは、なにげない物が多い。なにげない物の中に、本当の銘機が多いのも、数多く経験して来たから、そのなにげなさの中に夢を見る。店主自体のなにげなさと、カメラのなにげなさが一つになって、この店は本当になにげない。都内にある、なにげなく自然な中古カメラ店は、ここの他に一店舗しか知らない。