ガガーリン記念モデル

 経済的混乱が続くロシア。現在では信じがたい事だが、1950年代から1960年代にかけて世界の宇宙産業をリードした時期がある。史上初の宇宙飛行士を生んだのもロシア(旧ソビエト)であった。1961年ユーリ・ガガーリンは地球の周回軌道に乗った。人数が初めて地球の重力から開放された瞬間である。「地球は青かった。」と名ゼリフを残している。私は「地球は丸かった。」の方がよかったのではないかと思っている。当時人類は100年来の観測から、地球が丸いことはほぼ確実とされていたが、この事を100%完全に証明したのは、人工衛星による地球の写真が最初だからである。くわえてこの目でしっかり見たとなればもはや疑う余地はない。宇宙から地球を最初に撮影したカメラはもちろんソビエト製である。第二次世界大戦終結直後、ドイツ第三帝国の光学技術をそっくりそのまま略奪したソビエトのカメラ産業は優秀なものであったのである。以後の共産主義政治はソビエトのほとんどすべての工業製品の品質を落としてゆく。ソビエト連邦崩壊時には見る影もない状況であった、ソビエトの工業製品に関しては古い物の方がすべてに良く出来ている。とくにロシア建国直後の政治的混乱は絶望的な品質低下をまねいた。“まともな物が何1つ作れない。”こう言い切ってよいだろう。
 以後しだいに自由経済のなんたるかが理解されると、ロシアなりの売る努力が始まる。ローカルな例を1つ。アメリカ・ヨーロッパ・日本において古いカメラ(クラシック・カメラ)の人気が高く商売になると気付いた。ロシア人は、国内に残存するオールド・カメラの輸出を始めた。怒濤の輸出で、それまでコレクターの間で幻しと言われていたカメラが湯水のごとく市場に現れたのである。残存数には限りがある。そこでロシア人は考えた。『どうせ開店休業状態のカメラ工場だ。儲かるのならもう1度、昔のカメラを作ってしまえ』。無尽蔵なオールド・カメラの輸出が始まっている。今回招介するガガーリン記念カメラも一見、昔の物の様だが、たぶん新しく作られた物である

一部に古い物の部品を流用しているが新しく作り直されたと思われる部分も多い。まったく手づれがないし、内部もキレイな物だ。再生産にあたって普通のライカコピー機、フェドをお客様に喜んで頂ける様に、記念モデルとしたあたり、かなり市場経済が解って来た様である。少しインチキ・クサイ点なども、ロシアらしくてなかなかよろしい。更に皮肉な事に売る為の努力を始めた結果、かつてのソビエト製カメラには見る事の出来ない高品質な物となっての再登場である。