フナイのVTR

 日経産業新聞で、2001年度の据え置き型VTRの国内出荷台数シェアが発表された。

据え置き型VTR 日経産業新聞より
 据え置き型VTRの国内市場はDVD(デジタル多用途ディスク)プレーヤー・録画再生機に需要を奪われ、縮小が続いている。2001年の国内出荷は前年比4.4%減の613万台。3年連続の前年割で、衰退傾向が鮮明になった。
 2001年にはVHSとDVDの複合機の発売が多かったが、複合機の出荷台数はDVDプレーヤーに計上した。純粋なVTR機器だけで市場動向を見たため、メーカー各社の生産規模の縮小具合がシェア変動に直結した。
 上位5社のシェアをみると、横ばいだった2位の日本ビクターを除く全社が小幅低下した。市場の縮小ペースを超える水準で各社が生産量を減らした結果だ。シェアの減少分はサムスン電子などの海外メーカーや船井電機など、低価格品に強い中堅メーカーが奪ったとみられる。減産幅が特に大きかったシャープは前年の5位から6位へ順位を下げた。
 「今後はDVD録画再生機の価格が下がり、アナログからデジタルへの移行に拍車がかかる」(ソニーマーケティング)など、各社は据え置き型VTRの国内需要がこれから一段と減るとみている。「VTRに記録した録画を再生したい」という消費者の要望は根強いためDVDプレーヤーとの複合機は一定の需要が見込めるが、純粋なVTR機器は2002年も市場縮小が続きそうだ。

 各社の国内シェア、世界シェアに例年に無い変化が現れている。一言で言えば誌上にある通り、録画再生機能を持つDVDに市場そのものを奪われているようである。国内出荷は前年4.4%減、3年連続の前年割れとある。1980年前後普及し始めたVTRは20数年後の今日、その役割を終える兆しが見えて来た。2003年末には3大都市で地上波デジタル放送が始まる。さらに2006年には全国展開となり、2011年既存のアナログ放送はすべて打切りとなるらしい。(BSアナログも含めて。)
 技術的にも今日のアナログVTRは時代遅れの代物に見えて来た。デジタルVTRにすればよいと言う話も聞こえて来るが、それなら最初から録再DVDの方がよい。
 はっきり言おう。VTRは消滅する技術なのだと思う。中国で生産されるフナイ製の激安VTRや、韓国製VTRが国内5台ブランドのシェアを侵食しているらしい。量販店で6000円前後で買うことが出来る為、とくにこだわりがなければこれで充分だと言う訳だ。成熟しきった技術が、途上国に波及し激安商品となって世界中で売られると言う、雁行形経済の典型である。長い時間をかけて成熟し、良く練られ、、枯れた技術。
 フナイのVTRからは、工業製品の究極の姿が見える。部品点数は極限まで削られている。エンジニアリングプラスチックも多用され、軽量小型となっている。作動はソフトウェアが制御して、機械的な故障とは無縁である。私はフナイ製VTRが持っているある種のシンプルさに、あの世界的銘機ライカM4型をだぶらせている。
 ライカM4型もライカ社が50年に及ぶカメラ構造の経験から、極限のシンプルな構造を手にしている。この事は圧倒的な、信頼性と耐久性を実現する要素技術となっているのである。
 VTRはおそらくこのフナイ製のVTRをもってその進化を止めるだろう。これ以上革新的な製造手法をあみ出しても、市場がないし、価格も底値に思える。一部の物は多機能化と高級路線で延命を計るかも知れないが。VTRの基本的な製造上の技術革新はもう終わりである。

船井、安さに創意 日経産業新聞より
 デフレを嘆く企業が多い中で、売り上げや利益を伸ばす。したたかな企業が全国から名乗りを上げ始めた。規模や立地は関係ない。共通項は独自性だ。コストダウンやブランド価値向上など経営戦略がひと味違う。勝ち抜く企業の秘けつに迫る。まず価格にこだわる企業を取り上げる。
 船井電機とアイワ。低価格AV(音響・映像)機器で名をなした2社の明暗が分かれている。船井が2002年3月期決算(連結ベース)で最終利益131億円を確保する見込みなのに対し、アイワは三期連続の赤字。この差は製品にあるのだろうか。大手家電メーカーの技術者に依頼して両者の製品を「診断」してもらった。
 比較したのはDVDプレーヤー。船井の「DVD−F2001」とアイワの「XD−DV480」だ。東京都内の家電量販店で船井が13860円、アイワが16800円と店で最も安い価格帯の製品。いずれも中国製だ。
 目についたのは船井のメーン基板の小ささだ。
 DVDプレーヤーの中身は大きく分けてメーン基板とディスクを出し入れし、光信号を読み取るローダー、電源制御用の基板で構成している。船井のメーン基板の大きさは12センチメートルX10センチメートルで、アイワの半分。
 これはアイワの基板が二層構造なのに対し、船井が四層構造のため。四層は半導体の集積度が高い反面、面積当たりの価格は二層の約4倍とされる。単純計算では船井の基板のコストはアイワの2倍になるはずだ。
船井の基板はローダーの横に並べて配置しているが、省スペース化が必要な場合はローダーの上にねじ留めできるようになっている。小型機種やDVDとVTRの複合機などに共用できる設計だ。製品全体も小型化、アイワに比べ奥行きが約3センチメートル短い。輸送コンテナ一つに積める台数が増え一台当たり10数円のコスト削減にも結びつく。船井の2001年度のDVD関連製品の販売台数は海外も含め200万台を超えており、コスト削減効果は大きい。
 「部品が小さく少なければ生産性の向上にもつながる。単純に安い部品を選ぶのではなく、”小は大をかねる”という発想が背景にある」(船井の小林三郎専務)
 半導体は両社とも海外メーカーなどからの調達。一世代前の製品を使いコストを削減している。船井がグループで一括して集中購買しているのに対しアイワは「仕様は指定しているが、実際の調達は工場任せ」。半導体など電気部品が材料費の大半を占めるDVDプレーヤーではいかに安く半導体を調達できるかが競争力を左右する。
 材料費の2割を占めるローダーはアイワが部品を外部調達し船井は内製化。船井は外部調達では設計変更に手間がかかると考えた。要であるピックアップの部品数は初期の8個から5個に減らした。
 こうした積み重ねで船井のDVDプレーヤーの部品は当初のモデルに比べ約3割減ったのに対し、アイワは「先行機種と性能・部品ともにほぼ同じ」。中を見た家電メーカー技術者は「アイワは安い部品を組み合わせたという印象で中国製品と変わらないが、船井は低価格にかける工夫と意志が感じられる」と分析した。「VTRでの経験をふまえ調達から生産、物流に至るまで1銭単位で原価を下げる」(小林専務)。コスト管理の姿勢が収益力の差にも反映しているようだ。
 アイワの業績が悪化したのは主力のミニコンポなど音響製品で早くから中国メーカーなどとの価格競争を強いられたのが大きい。DVDに象徴されるように船井の本丸である映像機器でも同じ現象は進んでいる。
 デジタル家電はアナログ製品に比べ技術革新が速い反面、半導体などの部品さえそろえば製品ができるため後発の追い上げも速い。船井の船井哲良社長は「中国メーカーに技術で追いつかれれば日本企業の勝ち目はなくなる」と危機感を強める。
 船井はDVDの開発で三菱電機、リコーなどと相次ぎ提携した。開発スピードを上げ、コストを下げる狙いがある。
 DVDプレーヤーでは昨年まで、主力の米国市場で中国メーカーに低価格化で遅れを取っていたがいよいよ今年は巻き返す。1月には中国製品に迫る売価一台90ドル前後の低価格品を投入。5月に10億円弱をかけ、中国・東莞工場(広東省)のDVD生産能力を現在の約2倍の月産60万台超に増やす。
 船井は2002年度にOEM(相手先ブランドによる生産)を含め前期比約2.5倍の500万台を販売、世界シェア1割超を目指す。VTRに続いてデジタル家電が北米市場で通用するのかどうかDVDプレーヤーの売れ行きにかかっている。