プロセスの改善と見える仕掛けで対応

 これまでのコスト改善活動の延長では利幅を維持できない。
 コスト低減のためのプロセス改善が必要だ。
 最も大きな効果が見込めるのは、コスト改善のための先行開発工程を設けること。
 さらに、これまでどれだけコストあ掛かったかを、必要に応じてチェックすることが必要だ。
 そのためには、コストがリアルタイムで見える仕掛けが求められる。
 Part1の図1に見るように低価格化の激しい勢いに、コスト低減の改善度合いが追いつかないでいる。さらにこの差がつくようだと、利幅がほとんどなくなり、いくら売ろうが利益が出ない企業体質になる。
 このような局面に陥る一つの原因は、これまでのボトムアップ的な改善では、激しい低価格化の勢いについていけないこと。商品企画の段階ではこれまでと同等の利幅を確保するように、コスト目標をたてる。様々な工夫はするが、結局は時間に制限を受け、コスト低減が不十分なまま、利幅を狭めて商品を販売しはじめなくてはならない。
 別の側面からも現在は利幅を維持しにくくなっている。それは、製品ライフサイクルの短期化だ。一品受注生産品は別にして、メーカーは設計開発段階で投資したコストを、販売段階の売り上げによって回収し、利益を上げる。ライフサイクルが短くなるということは、売り上げによって利益を上げる期間が短くなっていることを意味する。
コストを重視した先行開発
 問題の原因はいずれにあるにしろ、企業としての利幅を確保するためには、根本的にコストに対する取り組みを全社的に変えることが必要だ。そして、その取り組みの一つとして「コスト改善を目的とした先行開発を実施すべき」とJMACの鈴木氏は指摘する。
 これまで、コスト目標に達成しきれなかったのは、設計者が詳細設計の段階で、製品を作り込むという本来の設計業務の中に、コスト削減を実施するための「開発業務」を並行して行わなければならなかったからだ。制限のある時間内では、この開発業務が満足に達成できず、結局は中途半端なままで終わってしまう。
 このようなことを起こさないためには、数年先の価格帯をにらんで、その価格を実現すべきだ。通常、先行開発と言えば、機能性能を高めるために実施されるケースがほとんど。しかし、至上主義の現在だからこそ、コスト優先の先行開発が必須となるわけだ。
 「コスト削減のねたを引き出しに多く持っていれば、詳細設計の段階ではそれを具現化する設計を実施すれば良いことになる」(鈴木氏)。ねたが多いほど、設計者は付け焼き刃的な開発を実施しなくても済むようになり、コスト目標にも余裕を持ってクリアできるようになると言う。
根本的な問題を明らかにし先行開発
 では、数年先をにらんだ先行開発を行うためには、どのような取り組みが必要になるのか。まず必要になるのは「その製品において、最もコストを発生させる要因は何にあるのかを、見つけること」(鈴木氏)だ。
 一つの製品を設計・製造するには、様々なプロセスを経る。そしてそのプロセスのそれぞれにコストが掛かる。それらのコストを明らかにし、劇的にコストを改善するためには、どこに着目するべきなのかを、まずはっきりすることが必要になる。
 そういった意味では、先行開発のねたは多種多様に渡る。そもそも製品構造にコスト増の原因があるならば、構造の変更を考えなくてはならない。また、生産にコストが掛かるのであれば、生産方法を変えていかなくてはならない。
 先行開発のテーマが多種多様に渡るのであれば、それを実施する開発部門にも様々な経験を持つ技術者を集める必要がある。テーマを設定した後は、当然それを具現化していかなくてはならないが、先行開発のテーマは製品の構造的なものだけではない。生産技術的なものもあればシステム的なものもある。もちろん、大多数は設計技術者になるかもしれないが、いろいろな見方をできるように、他部門の経験がある技術者を集めた、いわば「多国籍集団」を形成する必要がありそうだ。
コストと目標をリアルタイムで比較
 コスト低減を目標として先行開発部門を設置し、開発プロセスを大きく変えることと共に、コスト目標をできるだけ正確に設定することと、その目標値に対して現在とのギャップが見えるようにすることが重要だ。先行開発によってドラスティックにコスト削減する手段を持っていても、それを達成するために多大な投資をしては、結局は利益が出なくなってしまう。例えば、構造的には簡素化できて、材料費も下降コストも安くできるが、検証するための試作費に多大なコストが掛かるようであれば、見送らざるを得ないケースも出てくるだろう。
 必要なのは商品企画の後に続く、構想設計、詳細設計、試作、量産の段階で、どれだけコストが掛けられるのかをまず明確にすること。そして開発が進行していく中で、それまでに掛かったコストをチェックする場をできるだけ多く設けて、現状と目標を照らし合わせる。もし大きく隔たりがあった場合は、即座にその原因を追求し、できる限りの範囲で修正する。次回の製品開発においては、その失敗を繰り返さないように、取り組んでいくことが必要になる。
 SAPジャパンが提供する「mySAP PLMソリューション」の一つの目的は、製品の開発段階から量産段階までに必要とするコストを正確に管理すること。「PLM(Product Lifecycle Management)の目的は、品質の良いものを正しいタイミングで適切なコストで提供すること」(SAPジャパンのプロフェッショナルサービス事業本部SCMソリューションズ/PLMソリューションズ部長の巻幡雄毅氏)。このために、コスト管理と共に、製品に関するすべての技術情報の管理やプロジェクト管理、品質管理などの機能も併せ持つ。
 mySAP PLMは、製品に関する様々なコスト項目が管理でき、必要に応じて現在までのコストをリアルタイム集計、予算と対比するなどの機能を持つ。コスト管理に必要な実績を入力するための、各種画面も用意している。
 部門別で集計するのか、あるいはプロジェクト別で集計するのかなど、どのような単位でコストを集計していくのかは、それぞれのメーカーで異なる。また、それをブレイクダウンして、どのような項目まで詳細に管理するのかも、メーカーで異なる。このため、mySAP PLMではどのような切り口でコストを管理していくのかを、ユーザーはマスタ画面で自由に設定できる。
 実際の入力画面は、材料費入力画面や労務費入力画面、外注加工費入力画面など様々なものを用意。日々入力されたコストは、マスタ画面によって定義した単位で即座に見ることが可能。予算に対して何%まで到達しているのかが分かると共に、オーバーしているものに関しては、画面に色をつけて警告を促す。正確にコストを管理してはじめて、ライフサイクル全体でのコストを売り上げから利益が分析できる。これを繰り返していくことで、次のプロジェクトにおいてはどこにどれだけ予算を配分できるのが良いのかも、正確に管理できることになる。
 また、このようなコストを正確に管理しておくと、前述したようにコスト低減を目的とした先行開発において、どの部分に着目するかを決定する貴重な資料ともなる。様々な切り口でコストが分析できれば、どの工程で劇的にコストが改善できる余地があるのかを、簡単に知ることが可能。先行開発はその部分を集中的に攻めれば良いことになる。

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