適切なサプライヤを探し過剰品質は抑える
 コストを抑えるからといって、品質は犠牲にできない。
 品質は同等に維持することは当然。
 しかし、コストを抑えるためには、これまで実績のない新機構や新部品の採用が必要。
 この時に、できるだけ他の部門で使用されたことのある部品などを採用すべき。
 また、各種の解析ツールを利用して事前に評価することも重要だ。
 新製品は、機能は毎年アップ、一方で販売価格は毎年ダウンが求められる。ユーザーが受け入れてくれるのは、コストパフォーマンスに優れた製品だからだ。
 さらに品質も維持しなくてはならない。昔から製造業における管理指標としては、Q(Quality、品質)、C(Cost、コスト)、D(Delivery、納期)の3つが挙げられる。この3つの指標はいずれも大事であり、コスト至上主義と言えども、他の指標に関して、手を抜いて良いわけではない。
 実際にアンケートで、品質、コスト、納期の中でどれを特に重視しているかを尋ねた結果が図1。「いずれも差がない」と応えた回答者を含めると、合計で80%近くの人が品質を重視していると答えている。この回答はコストを重視していると答えた64%に比べて、大きく上回っている。コスト至上主義になり、コスト低減を強く意識するようになったとは言え、まだまだ品質を重視している割合の方が多い。
 この結果は工業立国である日本において言えば、当然の結果とも言える。日本がここまで工業立国としての確固たる地位を築いたのは、他国に比べて品質の高い製品を、安く提供してきたらからにほかならない。設計者にとってみれば、何かにおいても品質だけは他国に見劣りできないというプライドがあって当然だ。
開発期間の短縮が品質維持を困難に
 しかし、コストを重視した商品開発においては、日本を支えてきた高い品質を、根底からくつがえす危険性を秘めている。というのも「コストを低減しようと思えば、新しい材料や新しい機構を採用せざるを得ないが、それはトラブルを招く原因となる」(リコー画像システム事業本部C&F第二事業部副事業部兼第二PM室室長の池田貴志氏)からだ。
 もちろん、新しい機構や部品を採用しても十分な検証をすれば、従来と同等の品質を保てる。しかし、開発期間の短縮などの理由で十分な検討を行えないと、従来の同等の品質は必ずしも維持できない。また、ゴム製品のように予想外の挙動を起こす製品もある。長年、市場において信頼を勝ち得てきた構造を、コスト低減のために変更するならば、同等の品質を維持するのは、容易ではないということだけは言える。
会社全体に高い品質の部品を行き渡らせる
 このような品質が維持できないという問題に対処する一つの解答が、なるべく社内」で実績のある部品を選択することだ。新たに部品を購買する時は、コストを優先するのはもちろんだが、社内での評価なども加味したうえで、決定することが望ましい。
 多くのメーカーでは、部門単位あるいは事業所単位での部品情報の共有化はできている。しかし、事業所を超えて部品情報の共有化ができているメーカーは少ない。製造しているモノの大きさや、それに対する要求品質などが違うため、必ずしも異なる事業所で利用している部品が有効であるとは限らない。しかし、モーターやねじなど共通として利用できる部品は必ず存在するはずだ。できる限り社内全体として部品情報の共有化を実現するべきだと言える。
 技術的にもデータベース技術などの発達によって、遠隔地にある事業所同士がデータを共有できる仕組みを構造するのは難しくないはずだ。価格や購入量の実績、品質の実績、部品の推奨レベルなどを自由に検索できれば、コストが安い代替部品を簡単に探し出せる。
 実際に全社で利用できる電子部品データベースを構築しているキヤノンでは、「会社全体に品質が高くコスト競争力にも優れた部品を行き渡させることができるため、その効果は大きい」(CE本部本部長の山岡節彦氏)と言う。
 このようなデータベースを構築すれば、設計者の作業効率も上がるし、購買量も増やせるため、さらなる購入価格の低減も期待できる。また、従来であれば部品の購入先を変更するとなると、品質のチェックはもちろんのこと、その企業の供給能力や財務体制を調べたりするなど、時間が掛かるのが一般的。実績がある取引さきであれば、それらの調査もまったく必要ないので、即座に変更をかけることも可能だ。また、データベースを設計の仕様が固まる前の早い段階から参照すれば、調達作業も早い段階から実施できるという効果も期待できる。
 気を付けなくてはならないのが、データベースを常に更新しなくてはならないこと。いくら実績がある部品を採用したくても、既に製造中止になっていれば元も子もない。また供給量に耐えられなくても問題だ。そのような情報は常に更新して収納すべきだ。また、部品メーカーは新しい部品を次々と開発している。いつまでも古い部品を利用しているのはナンセンス。新しい商品が出た時は、十分に性能を検査した後に、データベースに収納していく必要がある。
設計者が容易に共通部品を探し出す
 では実際に、電子部品および機械部品の情報を全社で共有し、部品の共通化を推進しているリコーの例を詳しく見てみよう。リコーでは電子部品に関しては「ΣEシステム」を、軸受けや電磁クラッチなどの機械部品に関しては「ΣMシステム」と呼ぶ部品検索システムを構築している。
 同システムではデータベースに収納されている部品に、「推奨」「設定」「限定」などの推奨レベルを設定している。設計者は設計を進めていく段階で、必要に応じて同システムを利用して部品を検索する。この時、部品の分類、品名、型番、メーカー名などをキーとして、検索を実行できる。
 検索結果の中から、「型番ステータス」の欄に推奨または設定とされた部品があった場合は、過去に実績がある製品なので、設計者は安心して採用できる。一方でもし仕様を完全に満たした部品が見つからない場合は、できるだけ共通化された部品で代替できるよう、一部の仕様を変更しながら再度部品を検索する。コストを優先して部品を選択するならば、仕様を変更してでもデータベース内の設定部品を利用することが望ましい。
 しかし、どうしても設定部品の中には見つけられない場合もある。その場合は、設計者はグループウエア「Lotus Notes」上に用意されている定型のフォーマットで、新たに登録してもらうことを依頼する。認定部門ではこの依頼を受けて部品に関する調査を実施。部品の仕様や価格、入手のしやすさなどを考慮に入れたうえで、認定の可否を決定する。認定されれば、データベースに登録されて、設計者はその部品を選択できるようになる。
 このような仕組みを構築することで、設計者はコストを低減するための代替部品を、簡単に探せるようになった。また、部品の共通化が進むだけでなく、部品在庫の削減にも効果は現れた。例えば同社の秦野事業所では狽dシステム導入後、3年間で部品の在庫金額が半分以下になったという。
ユニット単位の共通化ならさらに有効
 このような共通化の考えは、ユニットに対しても有効だ。実績あるユニットを再利用できれば、そのユニットに関しては品質を考えなくても良い。また、ユニットを再利用できれば、部品の購入量や自社での生産量も増えるので、コストも抑えることが可能。
 しかし、ユニットは用途が限定されてくるために、再利用が難しい。まったく性質が異なる製品に対して、同じユニットが利用できるとは考えにくい。ユニットの場合は、同一の商品群で共通化するなどの戦略を取ることが必要になる。
 リコーでは、デジタル複合機の製品開発において、積極的にユニットの共通化を進める方針だ。現像ユニット、定着ユニット、転写ユニットのように、機能ごとにユニット化。それらのユニットは低額商品から高額商品まで、できる限り広い範囲をカバーする。また、次期商品に関しても、利用できるユニットは採用する。こうすることによって、ユニット単位で市場に多くが提供され品質が高まると共に、増産効果によってコスト低減も期待できる。
シミュレーションにより品質を確保
 部品レベルでコストを低減しようとした時に、設計者は購入部品であれば前述したように部品の共通化や他部品での代替を検討する。
 一方、成形部品や機械加工部品であれば、形状の変更や材料の変更、公差の変更などで、コストの低減を検討する。形状や材料を変更する場合は、構造解析ツールが製品の品質を確保するのに有効だ。最近は設計者でも容易に扱える構造解析ツールが増えており、3次元モデルさえあれば自分で評価を下し、フィードバックできる。さらに樹脂成形部品の形状や材料を変更する場合は、樹脂流動解析ツールも有効になる。自分の設計した部品が、果たして成形可能かどうかが、概ね検討が付けられるからだ。
 特にポータブル機器のような軽薄短小を競う製品は、「極限までそれぞれの部品を追い込んでいるため、解析ツールは欠かせない」(ケンウッドの岡本氏)存在になっている。コストを低減しても市場でクレームが起きたら、膨大な損害を被ることになる。このような事態を起こさないためには、コスト低減のために行った変更が、不都合を起こさないように、短い期間で検証しなくてはならない。その意味で設計者自らが解析ツールを使用する取り組みは有効だ。
公差解析で過剰品質を抑えてコスト低減
 一方、部品の公差を変更しようとした時に、威力を発揮するのが公差解析ツールだ。公差は厳しくなるほど、加工コストが上がる。しかし、むやみに公差を緩めると、製品の機能を低下させてしまうなどの原因となってしまう。
 加工コストを低減しようとすれば、緩められる場所の公差はできる限り緩め、逆に重要とされる場所の公差は厳しくするアプローチが必要だ。
 言葉で言えば簡単だが、公差解析は非常に複雑で、特に面の傾きなどを考慮した3次元的な公差解析は、手計算ではほとんど不可能。従って、公差に関しては過去の図面を流用したり、新規の部品に関しては勘と経験で設定しているケースが多い。
 この場合は、試作品を作成して検証、問題が発生すれば公差を見直す。しかし、通常見直されるのは公差を厳しくする方向。決して、コストが安くなる方向には修正されない。
 公差解析ツールは3次元モデルを利用して、複雑な公差解析を実行するもの。例えば日本テクノマティックス(本社東京)が販売する「eM−Tolmate」では、各部品の公差が組み付け方法を指示して計算を実効すれば、設計目標に対してどれだけならばつきがあるかをヒストグラムで表示すると共に、公差の影響で発生する不良品の発生率や工程能力数などを計算する。設計者はこの結果を見ることで、自分の設定した公差が目標を達しているのかなどを判断する。
 もし、目標に達していない場合は、公差を変更しなければならない。eM−Tolmateでは各公差が設定目標に対してどれだけ影響度があるかが、一目で分かるグラフを作成する。目標を達成していなければ、影響度が高い公差を厳しく設定して再度計算させれば、その効果が即座に分かる。
 コスト低減の観点から見ると、この影響度を表すグラフは重要だ。影響度が低い公差は、もっと公差を緩めても良いことを意味するからだ。もちろん限度はあるものの、どこまで緩められるかは再計算すれば、容易に判断できる。これを利用すれば、品質は落とさずに、しかも過剰品質となる公差を設定しないで済むことになる。
 公差解析ツールはドラスティックに構造を変更する時にも効果がある。例えば、ある個所の隙間を確実に3mm設けたいと言った時、新しい機構を採用しようとすると、適切な公差を設定するのは非常に困難だ。公差解析ツールを利用すれば、トライアンドエラーが簡単にできるため、目標とする値を実現するためには、どの程度の公差が必要となるかが簡単に分かる。
根拠を見せてサプライヤと値段交渉
 以上説明したシミュレーションツールは、自社内で加工する際にも有効だが、他社に加工を依頼する場合も方針を示すものとして有効になる。シミュレーション結果を基にして、加工メーカーと相談すれば、コスト低減要求にも応えてくれやすい。さらにシミュレーション結果を基に議論すれば、サプライヤのノウハウも加えた改善案を引き出せる可能性もある。
 ともすると、セットメーカーは一方的にコスト低減の要求を出すことがある。ある部品メーカーの技術者は「多くのセットメーカーは、購買担当者が変わると必ず値下げ要求を出してくる」と嘆く。もちろん、その担当者の立場に立ってみると、前任者から引き継いで、成績を上げたいという気持ちは分からなくない。しかし、単に値下げを要求するだけでは、結局泣きを見るのは部品メーカーということになる。
 体力があるサプライヤなら、一方的なコスト低減要求に対しても何とか自社の改善で応じることができるかもしれない。しかし、体力がないと、コスト低減要求に適切な対応ができず、品質の落ちた部品を納入するといった事態にもなりかねない。最終的には、市場での信頼を落とすのはセットメーカーであり、コスト削減のために大きな犠牲を払うことになる。
 お互いの納得いくコスト設定を行うためには、コスト低減のために根拠を見せることが重要だ。納得のいく話し合いが行われれば高い品質を維持しながらもコスト低減が可能になるはずだ。

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