コンテンツ業界 主導権 日経産業新聞 2002年6月21日
 2006年末の完全デジタル化を控え、米国でテレビ放送の著作権保護の議論が活発化してきた。音楽分野での無料ファイル交換の浸透を目の当たりにし、関連企業が危機感を強めたのが背景。ただ違法コピー防止の各論部分では対立も目立つ。業界主導に反発する消費者も含め、巨大市場を巡るせめぎ合いも今後、本格化しそうだ。
 情報技術(IT)、コンテンツ(情報の内容)、家電の主要企業約70社が参加したブロードキャスト・プロテクション・ディスカッション・グループ(BPDG)は今月初め、デジタル放送の違法コピーを防止する技術の概要をまとめた最終報告書を公表。番組に「デジタル・フラッグ」と呼ぶ暗号を挿入することで合意した。
 次世代のテレビやセットトップボックス、録画機、チューナー内蔵のパソコンなどにこの暗号を検知する機構を装備。著作権が有効な映画やドラマを視聴者がインターネットを使い勝手に送信しようとすると、暗号がかかる仕組み。3業界は今後、別のワーキンググループで技術の標準化や導入計画を検討。一方で政府に必要な規制の導入を働きかける計画だ。
 IT業界は過度の規制には消極的で、チップの追加によるコスト高を嫌う家電業界とともに、コンテンツ企業と対立する場面が多かった。総論とはいえ3業界が合意したことは「大きな前進」(フォックス・グループ)とされる。
 ただ合意の影で、微妙な思惑の違いも表面化してきた。
 映画各社はデジタルコピーやネット配信自体が違法コピーを助長するとみる傾向が強い。このため米映画協会のジャック・バレンティ会長は、合意を歓迎しながらも「フラッグを採用しなければテレビ局は映画などの付加価値の高いデジタルコンテンツを放送できない」と強調。より厳格な技術の採用を求めていく姿勢を示した。
 一方、家電業界ではフィリップスが「(DVDレコーダーなど)デジタル録画機の利用に支障をきたす恐れがある」と反発。全米家電協会は「違法配信防止の議論をネット配信全体に広げてはならない」と議論の行き過ぎにくぎを刺す。家庭内LAN(構内情報通信網)などのネットワークへの悪影響を懸念する声も根強い。
 消費者の動向も注目される。米国では今月上旬、ハードディスクを記録媒体に使うパーソナル・ビデオ・レコーダー(PVR)「リプレイTV4000」のユーザーが、機器使用の合法性の確認を求めてロサンゼルスの連邦地裁に提訴した。
 同機はCM部分を飛ばしたり、ネットを介してユーザー間で録音した番組をやり取りできる。昨年秋には放送局や映画会社などが著作権侵害にあたるとしてメーカーを提訴しており、こうしたコンテンツ側の論理に消費者の不満が爆発した格好だ。
 米国民は個人の権利に敏感なだけに、業界主導で進むデジタル・フラッグでも同様の反発が起きる可能性がある。
 一部の消費者団体は「映画会社はVTRが登場した時も反対した」と指摘。技術革新には保守的なハリウッドが、新技術に“拒否権”を持つことに警戒感をあらわにする。
 テレビ放送の完全デジタル化まであと約4年半。限られた時間内にいかに著作権保護と利便性の折り合いをつけるかが、円滑な移行を実現するカギとなってきた。
 今後の米国の取組みは、ほぼ同じじき本格化する日本での地上波デジタル放送にも同様の課題を投げかけそうだ。

ネット関連サービス協議会 NECなど4社で設立

 NEC,松下電器産業、日本テレコム、KDDIの4社は20日、インターネット関連サービスの協議会「メガコンソーシアム」を設立した。4社のほかコンテンツ制作会社など27社が加わりブロードバンド(高速大容量)向けサービスの開発を共同で進める。7月をメドに新しいサービスの事業化を検討する企画会社を設立する。
 NECなど4社が幹事会社となり、講談社や小学館、タイトー、東京電力、楽天など27社が参加した。「ブロードバンドコンテンツ」「マーケティング」「コミュニケーションサービス」の三部会を発足した。動画などコンテンツの共同調達や制作、市場調査などを各部会で分担して進める。会員企業数も拡充する。